浮気されて捨てられて

「そうですか。いつも章司がお世話になってます。

 

初めまして章司の婚約者の柿本香織です。」

 

 

 

えっ?

 

 

章司の婚約者…?

 

 

待って…意味わかんない…

 

 

どういうこと?

 

 

固まる私に香織さんは、容赦なく綺麗な笑顔を見せた。

 

 

 

「じゃあ。一ノ瀬さん。また、会社で。」

 

 

章司は、そう言うと香織さんの腰を優しく支えて去って行った。

 

 

 

何?

 

 

今何が起きたの?

 

 

ガクガクと脚が震え出した。

 

 

やだ…章司…

 

 

章司!!!

 

 

 

「七美!!どうこれ!?」

 

 

振り返ると幸せそうなお姉ちゃんの顔。

 

 

今お姉ちゃんの顔がさっきの香織さんの顔とダブって真っ直ぐ見ることが出来なかった。

 

「お姉ちゃん。ごめん。」

 

 

 

私は、そう言うとその場から逃げ出した。

 

 

 

「ちょっとーー!!!!七美!!」

 

 

 

お姉ちゃんの私を呼ぶ声を無視して夢中で走り続けた。

 

 

 

章司…

 

 

 

どうして?

 

 

 

婚約者って何?

 

 

 

私のこと好きだって言ってたのは、嘘だったの?

 

 

 

痛い。

 

 

 

胸が張り裂けそうに痛いよ。

 

 

 

涙で、グチャグチャな顔の私を通り過ぎる人が振り返る。

 

 

 

私は、鞄から携帯を取り出した。

 

 

プルルルル。

 

 

 

「もしもし。」

 

 

電話越しの声に安心して、さらに涙が溢れてきた。

 

 

「ゆ、由香…」

 

 

「七美??どうしたの??」

 

 

泣き過ぎて、上手く喋れない。

 

「うっ!由香…!」

 

 

 

「七美!?泣いてるの!?何かあった!?」

 

 

 

携帯越しにでもわかる由香の焦った声。

 

 

 

「今から七美の家行くから!!待ってて!!」

 

 

 

由香は、そう言って、電話を切った。

 

 

 

とりあえず帰ろう…

 

 

 

帰る途中何度もお姉ちゃんから電話がかかってきてたけど出る余裕は、なかった。

 

 

________

 

 

 

「ほら。ビール買ってきた。」

 

 

 

由香がソファで、膝を抱え丸まる私に缶ビールを差し出す。

 

 

 

冷んやりと冷たい缶を泣き過ぎて、パンパンに腫れた目にあてた。

 

 

 

「何があったの?」

 

 

「…」

 

 

由香は、私が話し出すまで、黙って待っててくれていた。

 

 

今日あった出来事をすべて話し終えて、顔を上げると眉間に皺を寄せた由香と目が合った。

 

 

私は、気まずくて目を逸らした。

 

 

「七美ごめん。私、章司さんに女がいること知ってた。」

 

 

えっ…?

 

 

うそ?

 

 

なんで…?

 

 

 

「たまたま街で目撃したの。楽しそうに手繋いで歩いてた。

 

 

何度も七美に言おうと思ったけど幸せそうな七美見てたら言えなかった。」

 

 

 

そんな…

 

 

 

由香は、下を向いて拳を握りしめた。

 

 

 

「本命は、七美で、ただの一夜限りの浮気相手かもしれないって自分に言い聞かせた。

 

 

でも…七美が浮気相手だったなんて。

 

 

許せない。」

 

 

 

由香の拳が震える。